2013年7月13日土曜日

北越雪譜 初編 巻之上 1.1.03.雪の深浅 (ゆきのしんせん)

1.1.03.雪の深浅 (ゆきのしんせん)

左伝に [隠公八年] 平地尺 (へいちしゃく) (みつる) を大雪と () 。と見えたるは、其国暖地 (そのくにだんち) なれば也。唐の韓愈 (かんゆ) が雪を豊年の嘉瑞 (かずい) といいしも、暖国 (だんこく) の論也。されど唐土 (もろこし) にも寒国は八月雪降る事、五雑組 (ござつそ) に見えたり。

暖国の雪一尺以下ならば、山川村里立地 (さんせんそんりたちどころ) に銀世界をなし、雪の飄々翩々 (ひょうひょうへんぺん) たるを観て、花に (たと) え玉に比べ、勝望美景 (しょうぼうびけい) を愛し、酒食音律 (しゅしょくおんりつ) の楽しみを添え、 () に写し (ことば) につらねて称翫 (しょうかん) するは、和漢古今の通例なれども、是、雪の浅き国の楽み也。 (わが) 越後のごとく、年毎 (としごと) 幾丈 (いくじょう) の雪を () ば、何の楽き事かあらん。雪の為に力を尽し、財を費し、千 (しん) () する事、 (しも) に説く所を視ておもいはかるべし。



註:
左伝 は、「春秋左氏伝」の略称 中国の五経の一つである春秋の解説書。
隠公八年は、隠公九年の誤り。(紀元前714年)

九年 [周恒王六年] 春王の三月癸酉、大雨霖して以て震 [雷鳴] すとは、始を書すなり。庚辰、大に雪ふるも亦た之の如し。時の失へるを書すなり。凡そ雨三日より以住を、霖と為し、平地 [雪積ルコト] 尺なるを、大雪と為す。

参照:和訳春秋左伝 田岡嶺雲 玄黄社



参照リンク:
私の北越雪譜 雪の深さ



単純翻刻

○雪の深浅(しんせん)

左伝に [隠公八年] 平地尺(へいちしやく)に盈(みつる)を大雪と為(す)と見(み)えたるは其国暖地(そのくにだんち)なれば也唐(たう)の韓愈(かんゆ)が雪を豊年(ほうねん)の嘉瑞(かずゐ)といひしも暖国(だんこく)の論(ろん)也されど唐土(もろこし)にも寒国は八月雪降(ふる)事五雑組(ござつそ)に見えたり暖国の雪一尺以下ならば山川村里立地(さんせんそんりたちどころ)に銀世界(ぎんせかい)をなし雪の飄々翩々(へう/\へん/\)たるを観(み)て花に諭(たと)へ玉に比(くら)べ勝望美景(しようばうびけい)を愛(あい)し酒食音律(しゆしよくおんりつ)の楽(たのしみ)を添(そ)へ画(ゑ)に写(うつ)し詞(ことば)につらねて称翫(しようくわん)するは和漢(わかん)古今の通例(つうれい)なれども是(これ)雪の浅(あさ)き国(くに)の楽(たの)み也我(わが)越後のごとく年毎(としごと)に幾丈(いくぢやう)の雪を視(み)ば何(なん)の楽(たのし)き事かあらん雪の為(ため)に力(ちから)を尽(つく)し財(ざい)を費(つひや)し千辛(しん)万苦(く)する事下(しも)に説(と)く所(ところ)を視(み)ておもひはかるべし


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