越後塩沢 鈴木牧之 編撰
江戸 京山人百樹 刪定
1.1.01.地気雪と成る弁 (ちきゆきとなるべん)
凡そ天より形を為して下す物、雨・雪・
水は地の全体なれば元の地に
天に九つの段あり。これを
さて雨露の
地の寒強き時は、地気、形をなさずして天に升る
九天と太陰天のイメージ図
参照リンク:
私の北越雪譜 大地の精気が「雪」となる話
単純翻刻
北越雪譜初編巻之上
越後塩沢 鈴木牧之 編撰
江戸 京山人百樹 刪定
○地気(ちき)雪(ゆき)と成(な)る弁(べん)
凡(およそ)天より形(かたち)を為(な)して下(くだ)す物(もの)・雨(あめ)・雪(ゆき)・霰(あられ)・霙(みぞれ)・雹(ひよう)なり露(つゆ)は地気(ちき)の粒珠(りふしゆ)する所(ところ)霜(しも)は地気の凝結(ぎようけつ)する所冷気(れいき)の強弱(つよきよわき)によりて其形(そのかたち)を異(こと)にするのみ地気天に上騰(のぼり)形(かたち)を為(なし)て雨・雪・霰(あられ)・霙(みぞれ)・雹(ひよう)となれども温気(あたゝかなるき)をうくれば水となる水は地の全体(せんたい)[ママ] なれば元(もと)の地に皈(かへる)なり地中深(ちちゆうふか)ければかならず温気(あたゝかなるき)あり地温(ちあたゝか)なるを得(え)て気(き)を吐(はき)天に向(むかひ)て上騰(のぼる)事人の気息(いき)のごとく昼夜片時(ちうやかたとき)も絶(たゆ)る事なし天も又気を吐(はき)て地に下(くだ)す是(これ)天地の呼吸(こきふ)なり人の呼(でるいき)と吸(ひくいき)とのごとし天地呼吸(こきふ)して万物(ばんぶつ)を生育(そだつる)也天地の呼吸(こきふ)常(つね)を失(うしな)ふ時は暑寒(あつささむさ)時に応(おう)せず大風大雨其余(そのよ)さま/゛\の天変(へん)あるは天地の病(やめ)る也天に九ツの段(だん)ありこれを九天(きうてん)といふ九段(くだん)の内最(もつとも)地に近(ちか)き所を太陰天(たいいんてん)といふ [地を去(さ)る事高さ四十八万二千五百里といふ] 太陰天と地との間(あひだ)に三ツの際(へだて)あり天に近(ちかき)を熱際(ねつさい)といひ中を冷際(れいさい)といひ地に近(ちかき)を温際(をんさい)といふ地気は冷際(れいさい)を限(かぎ)りとして熱際(ねつさい)に至(いた)らず冷温(れいをん)の二段(だん)は地を去(さ)る事甚だ遠(とほ)からず富士山は温際(をんさい)を越(こえ)て冷際(れいさい)にちかきゆゑ絶頂(せつてう)は温気通(あたゝかなるきつう)ぜざるゆゑ艸木(くさき)を生(しやう)ぜず夏も寒(さむ)く雷鳴暴雨(かみなりゆふだち)を温際(をんさい)の下に見る [雷と夕立はをんさいのからくり也] 雲は地中(ちちゆう)の温気(をんき)より生(しやう)ずる物ゆゑに其起(おこ)る形(かたち)は湯気(ゆげ)のごとし水を沸(わかし)て湯気(ゆげ)の起(たつ)と同じ事也雲温(くもあたゝか)なる気を以て天に升(のぼ)りかの冷際(れいさい)にいたれば温(あたゝか)なる気(き)消(きえ)て雨となる湯気(ゆげ)の冷(ひえ)て露(つゆ)となるが如(ごと)し [冷際にいたらざれば雲散じて雨をなさず] さて雨露(あめつゆ)の粒珠(つぶだつ)は天地の気中に在(あ)るを以て也艸木の実(み)の円(まろき)をうしなはざるも気中に生(しやう)ずるゆゑ也雲冷際(れいさい)にいたりて雨とならんとする時天寒(てんかん)甚しき時は雨氷(あめこほり)の粒(つぶ)となりて降(ふ)り下(くだ)る天寒の強(つよき)と弱(よわき)とによりて粒珠(つぶ)の大小を為(な)す是(これ)を霰(あられ)とし霙(みぞれ)とす [雹(ひよう)は夏ありその弁(べん)こゝにりやくす] 地の寒強(かんつよ)き時は地気形(ちきかたち)をなさずして天に升(のぼ)る微温湯気(ぬるきゆげ)のごとし天の曇(くもる)は是也地気上騰(のぼる)こと多ければ天灰色(てんねずみいろ)をなして雪ならんとす曇(くもり)たる雲(くも)冷際(れいさい)に到(いた)り先(まづ)雨となる此時冷際の寒気雨を氷(こほら)すべき力(ちから)たらざるゆゑ花粉(くわふん)を為(な)して下(くだ)す是(これ)雪(ゆき)也地寒(ちかん)のよわきとつよきとによりて氷(こほり)の厚(あつき)と薄(うすき)との如(ごと)し天に温冷熱(をんれいねつ)の三際(さい)あるは人の肌(はだへ)は温(あたゝか)に肉(にく)は冷(ひやゝ)か臓腑(ざうふ)は熱(ねつ)すると同(おな)じ道理(だうり)也気中万物(きちゆうばんぶつ)の生育(せいいく)悉(こと/゛\)く天地の気格(きかく)に随(したが)ふゆゑ也是(これ)余(よ)が発明(はつめい)にあらず諸書(しよしよ)に散見(さんけん)したる古人(こじん)の説(せつ)也
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